「来たんだ。待ってたよ」
先生をしているお父さんと一緒に、中国の山奥へ行くことになった。いつものようにひとりで留守番、というわけにはいかず、僕も連れて来られたのだ。
今までみたいに一週間ではなく、もっと長く掛かるみたいだった。
日本にひとりで置いておけないっていうけれど——それならもっと、家にいてくれればいいのに。
「今日はどんな話を聞かせてくれるの?」
途中、みんなと逸れて迷子になった僕は、いつの間にかこの子の家に辿り着いた。
「え、あんた10歳なの。もっと子供らしくしなよ。ワガママ言うとかさ」
迷い込んだ僕に、お姉さんはとても親切にしてくれて。
角があること。紐に繋がれていて不便そうなこと。なのにこの広い家には、お姉さん以外誰もいないこと。それはとても不思議な光景だったけれど、触れてはいけないことのような気がして、聞けなかった。
お姉さんは僕の話を楽しそうに聞いてくれた。
本を読むのが好きなこと。好きな食べ物のこと。行ってみたい場所のこと。
学校では誰も聞いてくれない僕の話を、頷きながら笑顔で聞いてくれた。
「さみしがり屋ねぇ。でもいつもと違って、お父さんとずっと一緒にいられて楽しいって。そう顔に書いてあるよ」
友達がいないこと。ひとりでいるのが好きなこと。けれど、お父さんともっと一緒にいたいこと。
誰にも話したことのない、僕の話を聞いてくれる。
話せる時間はそう長くない。日が沈んだら、また迷子になってしまうから。
そして帰るとき、ここでの出来事は誰にも話してはいけない、と言われる。
「わたしはここか...