『王国への導き』
※「神の使者」が到来するという「白鯨の日」の前日譚(ぜんじつたん)
エリシュオン家の末裔は世界中に広がっていた。
その一族は使者が到来する数年前から「空を覆う白鯨」の白昼夢を見るようになり、その日を目指してエリシュオンに移動を始める。
彼らの間ではその約束の時は「白鯨の日」と呼ばれていた。
過去の「白鯨の日」は約150年~200年前。
当時を知る王族の末裔はすでに居なく、絵画や言い伝えでしか伝承が残っていない。
その日が本当に来るのか、その地に本当に使者が現れるのかは誰も知らない。
招待状が届くわけでもなく、誰かに招集されるわけでもない。
何者かの意思によって、自然とこの地に導かれるのだ。
彼らは何かの使命を帯びている訳ではない。
ただその瞬間に立ち会う事のみの為に導かれている。
夢の中で見た「白鯨」の姿を目の当たりにする。
ただそのためだけに。
この日の早朝も名家の一群がエリシュオンに向かって馬車を走らせている。
その足取りには迷いはなく、ただ穏やかに堅実に歩を進めていた……。