− わたしの同僚が忽然と姿を消した −
少し時間が経ち、とある対象物の生産・管理体制の強化がAERIE SECURITYより命じられた。
この世界において、美の象徴である「花」は民衆間の格差から起こりうる差別の発生を危惧され、AERIE SECURITYの取締対象となっていることから民衆や商業施設には定期的に役所から均等な数が配給されている。
この平等な制度が普及したことにより、強制的に晒される「美」への劣等感や優劣はこの世界から消滅した。
姿を消した彼は正義感が強く、些細な事象に対しても過剰な反応を示す繊細な人物だった。
彼は元々警察官としての職務を全うしていたが、行き過ぎた正義感は事なかれ主義の上層部とその水に浸った環境の中では異分子と捉えられてしまう。
最初こそ、共感を得る仲間もいたが、一人、また一人と腐った水に耐えきれず、姿を消した。
彼はとうに腐敗した組織では何も変わらないことを悟り、移籍を決断した。
この世界は、彼の眼にどのように映っていたのだろう。
彼が、犯罪や差別が起こり得ない社会を望んだとしたら、身近に存在する「悪の根源」に対して憤りを感じていたのかもしれない。
彼が移籍し、どんな計画を立てたのかはあくまでも想像にすぎない。
変わらない日常、変わろうとしない社会。
この世界を管理する立場に身を置き、その場所で行動を起こす他に、理想を現実にする手段はない。
わたしは決して彼を批判するつもりはない。
むしろ、同情とも捉えられる奇妙な共感を覚えていることも事実だ。
彼が考えたであろう行動を起こすことは今のわたしにとっては可能だ...