未来はひとつしか存在しない。
それ故に新しい未来を手に入れるためには、今存在している未来のための過去を捨てなければならない。
例え、どんなに美しい記憶や忘れたくない経験であろうと不要である。
Fuelはそんなわたしの考え方を悟るように声をかけてくる。
“小さい頃、愛する母親と乗った楽しい空の旅の記憶すらも、記録となる機体そのものを無くしてしまえば、今の自分の想像を超えた未来が見えてくる”
今の社会は「継続的安全の未来」のために動いているように思える。
この空港も昔と同じく、工場のラインのように精密に検査され、航空券どおりに全てが動く。
持たされた荷物の中には精巧に造られた偽物のパスポート。
混雑するカウンターで預けたボストンバッグには、気持ちの良い青が広がった大空で発火する仕掛けが用意されている。
これらを空港側が予測している危機回避マニュアルと照らし合わせ、細工を施せば当然のごとくすり抜けられる。
あとは、変化した新しい未来へと身体を委ねるのみ。
彼らの提案に乗ることが正解かつ最善だとは思わない。
しかし、わたしはある程度予測された未来を歩むよりも、何も予測のつかない未来を歩む道を選ぶ。
自分自身しか気づくことのできない、乗客の足音に混じった小さな作動音に自然と耳を傾けてしまう。
"Fuel"